2010年02月11日

Albums Of 2009 GC Choice #1

If On A Winters Night Sting
#1 Sting "If On A Winter's Night..." (Deutsche Grammophon)


実はSting好きだとはこれまでもちょくちょく書いてきてるのでこれ単なるファンびいきでの選出だろうとお思いの方もいらっしゃると思うのですが、実際その通りであります。3年ぶりのオリジナルアルバム。大いに盛り上がって散々儲けたと思われるThe Police再結成ツアー以降では初の作品であり、前回が17世紀の英国王室付きリュート奏者John Dowlandの作品集という浮世離れにも程がある一品だったので今回揺り戻しがあるかな、と思ったらまだあっちの世界から帰ってきてなかったよ…。Allmusicで星1.5、The Guardian紙で星1つ(笑)などを筆頭に批評受けが良いわけでもなく、こんなの本当にStingが好きでたまらないファンだけ買ってればいいと思うのですが、コンセプトを「冬」に絞ったことでシーズン需要があったか商業的にはアメリカで6位(早速ゴールドディスクに認定)、イタリアやポーランドでは何故かマルチ・プラチナとなんだか意外なくらいのヒットになっています。



しかしいくら季節柄売れたからと言ってこの人が普通のホリデイ・アルバムなんか作るはずがなく。元々クリスマス・アルバムを作るようレコード会社が打診したところ「商業的になり下がった浮かれポンチなクリスマスなんか大嫌い。誰が"Silent Night"なんぞ歌うかい」と拒否、コンセプトを広げて彼の最も好きな季節だという冬をテーマにしたウィンター・アルバムとし、徹底して明るいイメージを排除。取り上げられるのは故郷ニューカッスルやマン島などブリテン諸島はもちろん、ドイツやバスク(スペインの異民族地域)といった欧州各地からも集めた民俗歌や聖歌、クリスマス・キャロルなど。バッハやシューベルトを自ら英訳した曲あり、ゲール語の女性労働歌を挿入した漁師たちの望郷歌あり、ヘロデ王がイエスを殺しに来るエピソードを歌いこんだ子守唄ありと、収録曲の説明をするだけで氏のイヤミ、じゃなかったインテリぶりが全力で襲いかかってくるラインナップ(殆ど小論文並みのライナーは本人の手による解説)。なんとかポップ音楽の範疇で語れるのは、2曲ある自作曲の他はPeter, Paul & Maryが60年代に取り上げてフォーク・クラシックになっている「Soul Cake」(一応先行シングル扱いらしくイタリアではヒットしたらしい)くらいのもので、前作に引き続いてのDEUSCHE GRAMMOPHON印に違わぬ異色作です。もうこの辺の説明だけで書いてるこっちはすごい知ったかぶって書くハメになってるし、読んでる方も特にSting嫌いな人は既にこの説明だけでアウトじゃないでしょうか(笑)。


winters night lounge

ただ前作が基本的にリュート奏者をひとり従えただけの編成で、異色とはいえクラシック(ていうか古楽?)の範疇で理解可能だったのに対し、今回は長年の付き合いのあるプロデューサーとギタリスト、さらにクラシックやジャズ、伝統音楽など畑違いのミュージシャンも多数呼び寄せ(て、イタリアの別荘に軟禁してレコーディングを敢行し)た結果クラシックの範囲からも明確に逸脱した折衷作となっており、サウンド面で前作に比べればとっつきやすくなっています。曲で描かれる世界も冬の厳かで美しい一面、もっと言えば、その厳しい冬を耐え忍んで生き抜いていく人々の生活に焦点が当たっており、国王讃美の歌とか入ってた前作よりはずっと親しみやすい内容です。例えば先に挙げた「Soul Cake」もその歌詞は物乞いと言って差し支えない、しかも乞われる方も施せるだけの富を持ち合わせていないと思われる描写が出てくる、古の庶民の清貧な暮らしぶりが生々しく伝わってくるような曲。


A soul cake, a soul cake
Please good missus a soul cake.
An apple, a pear, a plum, a cherry,
Any good thing to make us all merry,
A soul cake, a soul cake
Please good missus a soul cake.
One for Peter, two for Paul,
And three for him that made us all.

ソウル・ケーキ、ソウル・ケーキ、
どうぞ心やさしいご婦人、ソウル・ケーキをお恵みください
りんごでも梨でもプラムでもサクランボでも
私たちを喜ばせてくれるものなら何だって
ソウル・ケーキ、ソウル・ケーキ、
どうぞ心やさしいご婦人、ソウル・ケーキをお恵みください
一つ目はペテロへ、二つ目はパウロへ、
三つ目は我らが創造主へと捧げましょう


僕はこの曲に絡んで調べるまでソウル・ケーキというものを知らなかったんですが、現代でもハロウィンで貰えたりする伝統的なお菓子。貰った方はその見返りとしてケーキをくれた人にとっての故人(家族や友人)などのために祈る、というイギリス版のお盆のような習慣があり(尤もこの習慣の起源もイギリスと言うかアイルランドの、それも紀元前にまで遡るものらしい)、これが後にハロウィンの"Trick or treat!"へと変化していったんだとか。ハロウィンのお化けの仮装もこの習慣が本来強く死(者)と関わりがあるのが由来であり、ハロウィンがイギリスにおける冬=死の季節の始まりである10月末に位置しているのも、この曲がアルバムの最初(厳密には2曲目)に位置しているのも、きちんと意味があるわけです。まあここら辺の歴史的な話はキリスト教とケルト人の文化が複雑に入り混じっていて、正直僕も付け焼刃の知識だけでよく理解できていないのですが。

こういった各曲の背景はライナーと、デラックス盤のDVDでかなり詳しく紹介されているのですが、何せ難解な単語続出なのできちんと内容を把握したいのであれば字幕・対訳付きの国内盤にしたいところ。輸入通常盤と国内デラックス盤(SHM-CD仕様)を比べると価格に約2倍も開きがある割にDVDの収録内容は25分ほどのドキュメント映像のみ、というコストパフォーマンスの低さは大いに問題なんですが…。まあ購買層は主に金持ってるおっさん方だろうし、いろいろとファン心理や知的好奇心をくすぐられるエピソードが多いのは確かなので許す。逆にとりあえず音だけ聞ければ、ということであれば1枚ものの輸入盤で充分です(日本盤DVD付より3曲減りますが)。


思えば2000年代のStingはCheb Mamiと共演してアラブ・ポップの世界をレペゼンした「Desert Rose」のヒットに始まり、インドのAnoushka Shankar/Karsh Kaleの共演作への客演参加に前回のリュート詩人、そして今回の冬にまつわる民俗歌とどんどんポップのフォーマットから遠ざかって行った10年でした。まあその途中でSheryl CrowやCraig Davidとのデュエットでチャートに返り咲き、The Black Eyed Peas、Mary J. Blige、Twistaらアーバン勢との絡みもあり、そして前述のThe Police再結成ツアーと、俗世との接点は決して失われていないのですが。自身の活動では我が道をゆきまくる作品が続いたこともあり、本人は「次はポップアルバムにしようか」と言っているようですが、果たして次の10年でもまたヒットメイカーとしてのStingを見ることは出来るんでしょうか?




YouTubeで公式に投稿されているEPK。DVDで見られるものの最初の5分そのままです。


[GC Top20 Entries]

#2 Soul Cake
#20 The Hounds Of Winter



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#1 Sting "If On A Winter's Night..."
#2 V.A. "Mixmag Oct. 09 Mixed by Armand Van Helden & A-Trak present Duck Sauce"
#3 Jay-Z "The Blueprint 3"
#4 Fleet Foxes "Fleet Foxes"
#5 Nelly Furtado "Mi Plan"
#6 安室奈美恵 "Past<Future"
#7 Rihanna "Rated R"
#8 Kid Sister "Ultraviolet"
#9 Cascada "Evacuate The Dancefloor"
#10 Kris Menace "Idiosyncrasies"

meantime投票用 (#2と#6を対象外)
#11 Sally Shapiro "My Guilty Pleasure"
#12 Mariah Carey "Memoirs Of An Imperfect Angel"


毎年寒いところの人が上位に来るアルバムベスト選考ですが、
今年はアルバムそのものが寒い作品でした。
つかなんだかんだ言ってイギリス人を1位に選んでるな…
(これまで5年分やっててこれで3回目)
posted by Skedge at 00:00| Comment(0) | 年間ベスト選考 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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