2015年02月12日

2015年グラミー雑感: どうしてBeckの受賞が気に喰わないのか考えた




グラミーは予想ネタの記事を書きたいとは思いつつも間に合わず、当日はオンエアが深夜でしかもうちにはテレビが無い(ちなみに傘もない)、ということで後日結果だけをざーっと見たわけですけど、結果を見ながら連投したツイートの最初がこれでした。




そして今朝、いつも愛読している澤田太陽さんのこのブログ記事を見て、普段は共感できることの方が多いのに珍しくこれは「こりゃないでしょ!」と思ったのをきっかけにいろいろ考えたので、どうして僕がBeckの受賞を気に食わないのか、自分でも思考を整理してみようかと思いまして。




まず、件のAlbum Of The Year、僕の「予想」はこうでした。

◎Sam Smith
○Beyonce
×Ed Sheeran
 Beck
 Pharrell Williams

多くの人がそうだったように僕も「Sam Smith主要四部門制覇」との読みで、それにBeyonce(や別部門だけどHozier)が一矢報いるかな、という感じでした。Edくんは一応僕個人の年間ベストなんですけど、ただでさえロクにアルバムなんて聞かない人間なうえ去年はアルバム全体が不作な中でとりあえずこれを1位にせざるを得なかった、的なすごい後ろ向きな1位。そこからファンびいきを抜いてなおこのアルバムを世の音楽ファン全体に向かって堂々と推せるか、というとやっぱりちょっと弱いよなあ、というのが正直なところ。Samも去年の主役ではあったけどアルバム自体が激賞されてた印象はそれほどないし、「34年ぶりの四部門制覇」という派手な宣伝文句に釣り合うほどの歴史的大活躍だったか、という点で引っ掛かりを覚えたのも事実(実際、これ投票した人たちにこういうバイアスかかった部分も結構ある気がしている)。つうわけで、「予想」を別にすれば、Beyonceが一番「妥当」かなあと思ってました。グラミーという場における「格調」や「華」の面でもふさわしいと思ったし。


ノーマークの2枚に関しては、まずPharrellはあれ個人的には結構愛せるアルバムなんですけど、特に目新しいことをしたわけでもなく小粒な曲ばかりの「愛すべき小品」っぽい雰囲気、世間的にも「Happy」以外は肩透かしを食らってる人が多いかな、という印象だったんで、5枚中唯一ノミネーションに疑問符をつけた作品。代わりにカントリーあたりから1枚持ってくれば良かったのでは。Beckは実は恥ずかしながらリリースされてたこと自体気づかなかったんだけど、「ロックから1枚入れたかったんだよう」って人々の存在を考えたときに、これが年末のメディア受けが良かったことはなんとなく見聞きしてたし、そういうロック作品の中では知名度もある人だしノミネーション自体はまあありかな、という感じでした。ロック枠がColdplayじゃないのか、とちょっと思ったくらい。


「作品の質・芸術性」みたいなとこで行けば別にBeckでも問題なかったんだろうとは思います。ただ僕は、グラミーの「主要部門」に関しては「芸術性と大衆性を両立させた作品」、つまり、「批評的な評価もきちんと勝ち取りつつちゃんと売れた作品」「単なる売れ線ではないことをちゃんとみんなの見えるところでやってみせた作品」にきちんと取ってほしいんですよね。その観点で言えば、Beyonceが最もバランスよくどちらのポイントも取ったアルバムで、Beckはいくら知名度や実績があるとはいえ、件のアルバムが大衆的に好評を得たかということを考えたら他のノミネーション作品に比べてあまりにも劣りすぎてます。そこを芸術性だけの一点突破で主要部門取られたら、それがどんなに音楽的に優れていると力説されたところで、僕は納得いかないですね。マーキュリー・プライズじゃないんだからさあ。





こんなこともつぶやきましたが、「好評っつったって所詮ロックファンの中だけの話でしょ?ロックファンでもない俺(←主観すぎるが)は知らんがな」なレベルの作品なら、「主要」部門での受賞はふさわしくありません(上のツイートを補完するなら、例えばArctic Monkeysがあのまんまでアメリカでもイギリス並みにシングルヒット出せたらぜひ獲らせたい)。これがOKなら、カントリーやジャズのフィールドでものすごく人気や評判が高いけど、一般ポップ音楽ファンにまで広く知られてるとは言い難いMiranda LambertやRobert Glasperみたいな人がAlbum Of The Yearを取ってもロックファンは文句を言ってはいけないことになるんですけど、それでもいいですか?Beckはそいつらと実績が違うだろう、と思うなら、ほぼ実績点オンリーで2008年にこの部門を制した大ベテランHerbie HancockのJoni Mitchellトリビュートについて疑問に思いはしませんでしたか?ロックの影響力をカントリーやジャズとを一緒にするな!と言う人がいたとすれば、今「ロック」という枠組みの外側から見てても、なんとなしにでも「なんかすごい人気らしい」「評判がいいらしい」という空気が伝わってくるアーティストがほとんどいない、という現実を知らなさすぎます。





Beck Kanye.jpg


誤解のないように繰り返しますが、別に僕はBeckのアルバムがクソだから受賞に値しない、とは全く思っていません。たぶん僕の感性ではきちんとその真価が分からないだろうこともあるのでそこに踏み込むつもりはないですし(つうか踏み込めない)、先にも書いた通り「メディアでの評判が良かった」んだから、一定水準以上の質は保障されてるんだろう、くらいのものです。その点ではKanye Westの乱入未遂の件にも全く共感はしません(ネタとしては面白かったけど)。彼がBeckのアルバムを聴いたうえで言ったかどうかは知らないけど、「Beckは芸術性を尊重してBeyonceに賞を返すべきだ」なんて、それこそ同じミュージシャンとして礼を失して余りある酷い言い草だし、作品そのものに対する予てからの評判を考えれば単なる世間知らずです。(ちなみにそれに対するBeckの返しがいい人すぎる。あと毎回巻き込まれるBeyonce超めんどくさいだろうな)



ただ、彼の今回の発言でも、同意と言い切っていいか分からないけど、「そうかもね」と思った箇所はありました。


「俺らをからかうのもいい加減にしてくれ!(They need to stop playing with us!)」

という部分。これはこの発言を聞き知る前から僕も思ってましたが、グラミーの主要部門が黒人に対してやたら門戸が狭いことを指した言葉ですね。これに関しては、先の太陽さんの記事でも「ちょっとでも気に食わないことがあったら『全部、差別のせい』って片付け方は一体どうなの?」という、他人種からはなかなか指摘しづらい苦言が呈されてますが、僕もそれには賛成しつつ(あらゆる種類のマイノリティに当てはまる話だと思う)、けどことグラミーについての話なら、彼らがそう思っても仕方ないくらい過去の受賞者リストが真っ白、ということもあって割と僕は同情的です。しかも今回のAlbum Of The Yearで言えば、僕は「大衆性と芸術性を兼ね備えた黒人のBeyonceを、芸術性のみで白人のBeckが破った」という対決構図で捉えてるんですが、これが、すなわち「一般ピーポーに売れたかどうかはいいじゃん、下らないよ、音楽を聴こうよ」みたいなのがグラミーの言い分なのだとしたら、



Macklemore Kendrick Lamar.jpg

どうして去年Kendrick Lamarにひとつも賞を与えなかったのか!


と、またMacklemore vs Kendrickの件を蒸し返したくなります。
(それがあったからか今年シングル「i」だけでラップ部門2冠取りましたね。よかった)

これ、言ってみれば今回のBeyonce vs Beckの白黒逆転版のような情勢。当時も思ったけど、Macklemoreにとってもとても災難なイベントでしたよね。世間は、特にヒップホップファンは「売れただけの白人 VS (クロスオーバーヒットは出なかったけど)素晴らしいクオリティの黒人」みたいな見方だったのかもしれないけど、僕はMacklemore & Ryan Lewisってラップのスキルとかトラックの質とかLGBTネタとかの「芸術点」も充分稼いだと思ってて、それこそ同じ年にKendrickがいなければあそこまでモメたりしなかったんじゃないかと気の毒で仕方なかったです。おかげで彼は受賞後いくつも「弁明」をするハメになるんですけど(これがまた彼の人柄や思慮深さをよく表してて好感度高かった)、その中にこんな発言がありました。



Kendrick Lamarを抑えてグラミーRAP部門を制したMacklemoreが、投票システムの問題点を指摘・・・「自分が詳しいジャンル以外のアーティストはよく分からない。そういう状態で、皆が誰かに投票をしている」



これ、どうもすべての元凶じゃないかと僕は思ってるんだけどどうでしょう。Macklemoreははっきりと言明はしてないですけど、「俺はカントリーのことはあんま知らん。みんなそんな状態で投票してる」という発言から察するに、どうやらグラミーでは主要部門はおろかジャンル別の投票でも、その道に明るくない人であっても投票権を持っている、Macklemoreが(新人賞どころかラップ部門でも)Kendrickに勝ててしまったのも、ラップのことをそこまでよく知らない投票者が知名度だけでMacklemoreに投票した結果だ、と読めませんか?


同じことが今年も起きたかもしれない、と思った部門がありました。Slipknot、Mastodon、Anthrax、Motorheadと、僕ですら名前くらいは知っているメンツが揃ったBest Metal Performance部門で、コメディ俳優のJack Blackがやってるバンド、Tenacious Dが勝ってるんですよ。メタルともなるともう僕レベルのアンテナの張り方では「評判」ですら全然分からない世界なので100%推測になっちゃうんですけど、メタルのことをロクに知らない投票者が、ハリウッド俳優としてのJack Blackの知名度に引きずられてなんとなくTenacious Dに投票したように思えてなりません。


こうなってくるともはや主要部門の結果でさえ、その投票行動がきちんと高い意識や知識に裏打ちされたものなのか、あまり信用がおけなくなってきます。太陽さんは先の記事でBeckの勝因を、「今のグラミーの審査員に批評的なインディ・ロック支持者の勢力がかなり混ざっている」「90sにオルタナティヴ・ロックを聴いてきた世代が40〜50代になって、音楽界の背後で意見を言えるようになったから」ととても肯定的にとらえてます。90年代に思い入れのある世代が審査員に増えた、ここは僕も正しいと思いますけど、その行動理念自体は、「ちゃんとインディー分かってる奴が選んでる」とかそんなカッコいいものじゃないのでは、と疑いたくなります。




Ed Sheeran、Sam Smith、Beyonce、Pharrell、そしてBeck。
彼らから見て唯一「オレたちの世代」の人に、なんとなく票を入れた人が多かった。




そんだけのことかもしれませんよ。もしかして。
そうだとしたら本当に「俺らをからかうのもいいかげんにしてくれ!」

posted by Skedge at 11:18| Comment(5) | GC Top20 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
Beck ファンですが、全くもって同意です。すばらしい。
Posted by yukari at 2015年02月12日 12:43
読んだので来てみたよ。

まあ、いろんな意見があっていいので、skedge君の意見は尊重するよ。

ただ、思ったとこだけ。

ひ とつは、skedge君がロックのマーケット・シェアを過小評価し過ぎてること。間違ってもジャズとは一緒にはならないよ。ロックだと、まだアルバムの全 米チャートで1位とか出るけど、ジャズで売れるアルバムはビルボードでは果たして最高位はどのくらい?100位入ったらかなり良い方だよ。

あと、カントリーはアメリカじゃデカいが、国境を越えればほぼ誰も知らない世界。逆にロックに関しては、世界のどの国に行っても市場がある。そうしたヴァリューにおいてはまだカントリーは説得力ないし、あの内輪うけは世界にはなかなか出しにくい。

それに対し、今回のベックのアルバムは全米で3位、全英4位をはじめオーストラリア、イタリア、オランダ、スイスなど10カ国前後でトップ10入りを記録している。この数字で「大衆性がない」と言い切れるかな?
Posted by 太陽 at 2015年02月13日 10:05
こ れで大衆性がないという判断なのなら、「シングル・ヒットを出していないものはダメだ」みたいな極論になる。だが、そうなった場合、たとえば、そういう ヒット曲のあるアーティストだけを対象にした場合、「そういう曲しか聴いたことのないリスナー層」が一体どんなか、想像したことある?たとえばキミの周囲 の、オリコンのシングル20位以内の曲しか興味のない友人を思い出してみな?彼らが広い音楽的見識でものが見えてると思う?
「大衆性」というもののレンジを狭めすぎてしまうと、広く音楽を聴いて、「シングルでヒットしたものより、こっちのアーティストの方が圧倒的に良いのに、 商業主義に飲まれすぎだ!」と憤る人だって必ず出て来る。そういうタイプの、実際に音楽をもっとシリアスに愛してくれるリスナーを切り離す考え方は危険だ よ。そういうことがまかり通ってしまったら、それこそ資本と怖い人が背後にそびえる「ザ芸能界」みたいなものしか評価されなくなる可能性だってなきにしも あらず。残念ながら日本の音楽賞とかそういう世界だけど、そういう風になっても本当にいい?

あと、僕自身も、ビヨンセとベックの今回のアルバムならビヨンセの方が本音言うと好きなんだ。でも、ベックが取ったって、それが「おかしな、起こるべきことではない」とは決して思わないし、否定される必要は一切ない。

あと、別にベックって、同世代だけに支持されているわけではないよ。最近の、ここ数年出て来たインディのアーティストを推してるピッチフォークみたいなサイトでも普通に評判良い訳で、別にノスタルジーを喚起する年寄りではないよ。

そんな感じかな。
Posted by 太陽 at 2015年02月13日 10:07
お返事おそくなってすみません。


>yukariさん

コメントありがとうございます。
あまりに全肯定すぎて、「俺こんな自演コメント書いたっけ?」と思いました。



>太陽さん

わざわざありがとうございます!
やっぱり突っ込まれるかなーと思ったところをつつかれてしまいました(笑)

まずロックをジャズやカントリーと並べちゃったのはちょっと失敗だったかなと。国際的な影響力やマーケットの大きさについてはおっしゃる通りだと思います。ただ、ずっとロックコミュニティの外側にいた僕からすると、今のロックシーンって、中で何が起きてるのか本当に見えにくいんですよ。00年代半ばあたりまでは当代で一番人気のバンドがちゃんと売れたりして割とそういうのが見えてた記憶があるので、それと比べちゃうとなおさらですね。

Beck単体の大衆性についていえば、「ない」とはさすがの僕も言ってなくて、他と比べて「あまりにも劣る」というのが真意です。今のアルバムチャートでTop10なんて一瞬入ってはさっさと落ちていく作品がザラにある以上、週間の成績は大衆性を測る指標としてはあまりアテになりません。これが年間になると、

Beyonce 2位
Sam Smith 11位
Ed Sheeran 21位
Pharrell 26位
Beck 60位

です。一応イギリスも並べてみると(グラミーはなんだかんだ言ってアメリカの賞なんだからあまり考慮しなくていいと思いますが)

Ed Sheeran 1位
Sam Smith 2位
Pharrell 15位
Beyonce 24位 (2013年41位)
Beck Top40圏外 (正確な順位は見つからず)

これくらいの差です。

加えてBeck以外は全員シングルで週間全米2位以上の曲を1曲、Top40ならみんな2曲以上出してる中、Beckは今回Top100ヒットすら1曲も出してません。これが「Beckはシングルヒット向きではない」のならまだいいんですが、「Loser」は別格にしても、それ以降もアルバム出すたびに100ヒット程度ならぽろぽろ出してた人です。ロックファン以外からセールス/ポピュラリティの不足「だけ」を理由にして受賞に疑問を持たれたとしても仕方ないレベルだと思います。
Posted by Skedge at 2015年02月20日 11:00
>太陽さん(続き)

それから、僕がシングルヒットをより重視しがちなタチなのは認めざるを得ないのですが、それでも、アメリカのシングルチャートって、(固定ファンでがちがちのオリコンチャートと違って)とてもシングルヒットが狙えそうにないタイプの曲でも、大衆が面白がればちゃんと上位に来る可能性が残ってると思うんですよね。インディー的なセンスの連中で言えば数年前のFoster The PeopleやThe Lumineersなんかがそうでしょうし、LordeやAdeleなんかは、尖った感性の持ち主から評価されるタイプのアーティストがポップファンからもグラミーからも一致されて愛された幸福な例なんだと思います。

Beckがロックファン以外からも愛されてしかるべきそういう要素があったのなら、もう少し分かりやすいリアクションがあってもよかった。それがそうならなかったのは、上に挙げた人たちがみんなほぼ若手なのに対してベテランのBeckは(少なくとも市場からは)冷遇されたということであり、ビルボードがベテランに冷たい事実そのものの是非は置いておくにしても、そのハンデを跳ね除けて受賞に至ったのは、ベテランに甘い同世代からのバイアスがかかったと考えても無理はありません。

「広い音楽的見識でものが見えて」ない人にすり寄れとは言いません。僕だって今のレコード大賞には全く興味が持てませんし、今回がMeghan Trainer vs Beckだったらこんなに憤ることはなかったです。今回の競合相手であるBeyonce(やSam Smith)は、シリアスな音楽ファンから見ても納得しうる選択肢だったからこそです。Arcade FireやBon Iverの受賞はここまで強力な対抗馬がいなかったからかむしろクールな印象でしたけどね。

ライトリスナーを切り捨てて、ライトリスナーにアピールしたロック(エモとかニューメタルとか)もそんなのロックじゃないと追放して、「実際に音楽をもっとシリアスに愛してくれるリスナー」相手にやれ批評家から好評だのピッチフォークで高得点だのと内輪にしか分からない世界にこもり続けてきたグランジ以降のロックが今どうなってしまったかは、他ならぬ太陽さんがブログで繰り返し指摘されてきたことのはずです(僕も影響されまくって、結構音楽仲間との会話でよく話題に出します)。同じことがポップミュージック全体に起きてほしくない、と僕は強く思っていますが、実際にそれが起きつつある。ここ数年のグラミーのノミネーションが非常に「分かりやすく」なったのも、そういう危機意識の表れと受け止めていただけに、今回のチョイスにはとてもがっかりさせられたんです。
Posted by Skedge at 2015年02月20日 11:22
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